
EQを使っていると、
「どの周波数を調整すればいいのかわからない」
「200Hzや3kHzと表示されても、何の音なのか想像できない」
「とりあえず動かしているけれど、正解がわからない」
と悩むことがあります。
EQを使いこなすためには、それぞれの周波数帯域にどのような音が含まれているのかを知ることが大切です。
この記事では、音の周波数をいくつかの帯域に分け、それぞれの特徴やボーカルに与える影響を初心者向けに解説します。
EQの帯域別マップとは?
音は、低い音から高い音まで、さまざまな周波数が組み合わさってできています。
EQの帯域別マップとは、周波数をいくつかの範囲に分けて、それぞれの帯域が音にどのような印象を与えるのかをまとめたものです。
大まかに分けると、次のようになります。
| 周波数帯域 | 主な音の特徴 |
|---|---|
| 20〜60Hz | 振動、地響き、超低音 |
| 60〜120Hz | 低音の重さ、迫力 |
| 120〜250Hz | 太さ、温かさ |
| 250〜500Hz | こもり、箱鳴り |
| 500Hz〜1kHz | 声の芯、中音域 |
| 1〜2kHz | 言葉の聞き取りやすさ |
| 2〜4kHz | 存在感、声の前への出やすさ |
| 4〜8kHz | 明るさ、子音、歯擦音 |
| 8〜12kHz | 艶、きらびやかさ |
| 12〜20kHz | 空気感、広がり |
ただし、この分け方は絶対的なものではありません。
声質や楽器、録音環境によって感じ方は変わるため、EQを使うときの目安として考えましょう。
20〜60Hz|振動や地響きを感じる超低音域
20〜60Hzは、耳で音程を聞き取るというよりも、体で振動を感じやすい帯域です。
キックやシンセベースなどでは、曲の迫力を支える重要な部分になります。
一方、一般的なボーカルでは、この帯域に必要な成分はあまり多くありません。
マイクスタンドや床から伝わった振動、エアコンの動作音、マイクに当たった風などが含まれていることがあります。
多すぎるとどうなる?
- 曲全体が重たくなる
- 低音がぼやける
- 音量を上げにくくなる
- コンプレッサーが不要な振動に反応する
ボーカルでは、ローカットを使って整理されることが多い帯域です。
ただし、低音が必要な楽器まで一律にカットすると、曲の迫力が失われるため注意しましょう。
60〜120Hz|低音の重さや迫力
60〜120Hzには、キックやベースの力強さが多く含まれています。
男性の低い声や、低音を強く出した歌声にも、この帯域の成分が含まれることがあります。
ボーカルに適度に含まれていると、声に力強さや重さを感じられます。
多すぎるとどうなる?
- 声が重たく聞こえる
- ベースやキックとぶつかる
- 曲全体がモコモコする
- 声が近すぎるように感じる
少なすぎるとどうなる?
- 声の迫力がなくなる
- 低音が薄くなる
- 軽く頼りない声になる
ボーカルのローカットでは、この帯域まで削りすぎないことが大切です。
特に低音が魅力の男性ボーカルでは、必要な声の成分まで失わないように、実際の音を聴きながら判断します。
120〜250Hz|声の太さや温かさ
120〜250Hzは、ボーカルの太さや温かみを感じやすい帯域です。
声に適度に含まれていると、柔らかく、安心感のある印象になります。
男性ボーカルでは声の土台になりやすく、女性ボーカルでも声の厚みを支えることがあります。
多すぎるとどうなる?
- 声がモコモコする
- 伴奏に埋もれやすくなる
- 音が近すぎるように聞こえる
- 曲全体が濁る
少なすぎるとどうなる?
- 声が細くなる
- 温かみがなくなる
- 人工的で冷たい印象になる
- 声の土台が弱くなる
声がモコモコしているからといって、この帯域を大きく削ると、声の魅力まで失われることがあります。
少しずつカットし、伴奏と合わせながら確認しましょう。
250〜500Hz|こもりや箱鳴りが出やすい帯域
250〜500Hzは、声の厚みに関わる一方で、こもりや箱鳴りが目立ちやすい帯域です。
録音した声が、
「段ボール箱の中で歌っているように聞こえる」
「音が曇っている」
「声が前に出てこない」
と感じる場合は、この周辺に原因があるかもしれません。
多すぎるとどうなる?
- 声がこもる
- 音が曇る
- 抜けが悪くなる
- 複数の楽器が重なると濁りやすい
少なすぎるとどうなる?
- 声が薄くなる
- 中身のない音になる
- ラジオのような軽い音になる
- 声の自然さが失われる
こもりを減らすために調整されることが多い帯域ですが、削りすぎると声がスカスカになります。
狭い範囲を大きく削るよりも、まずは広めの範囲を少しだけ下げて変化を確認すると、自然に整えやすくなります。
500Hz〜1kHz|声の芯を作る中音域
500Hz〜1kHzは、人の声らしさや音の芯に関わる帯域です。
電話や小さなスピーカーでも比較的聞こえやすく、言葉やメロディーを伝えるために重要な部分です。
多すぎるとどうなる?
- 鼻声のように聞こえる
- メガホンで話しているような音になる
- 声が硬く感じられる
- 中音域が目立ちすぎる
少なすぎるとどうなる?
- 声の芯がなくなる
- 伴奏の中で存在感を失う
- 音が遠く感じられる
- 声が不自然に空洞化する
この帯域を削りすぎると、一見すっきりしたように聞こえても、伴奏の中でボーカルが弱くなることがあります。
ボーカル単体だけではなく、必ず曲全体で確認しましょう。
1〜2kHz|言葉の聞き取りやすさ
1〜2kHzは、歌詞や言葉の聞き取りやすさに関わる帯域です。
この帯域が適度にあると、声の輪郭がわかりやすくなり、何を歌っているのか伝わりやすくなります。
スマートフォンやノートパソコンの小さなスピーカーでも聞こえやすい帯域です。
多すぎるとどうなる?
- 声が硬くなる
- 電話のような音になる
- 耳に圧迫感を感じる
- 長時間聴くと疲れやすくなる
少なすぎるとどうなる?
- 歌詞が聞き取りにくくなる
- 声が遠く感じられる
- 伴奏に埋もれやすくなる
- 輪郭がぼやける
ボーカルを前に出したいときに持ち上げたくなる帯域ですが、上げすぎると不自然に硬い音になります。
まずは伴奏側の同じ帯域を少し整理できないか確認することも大切です。
2〜4kHz|声の存在感やアタック
2〜4kHzは、ボーカルの存在感や、音が前に出る感覚に関わる帯域です。
子音の輪郭や発音の強さも感じやすく、ボーカルを伴奏の中で目立たせる働きがあります。
ギターやピアノ、スネアなどにも多く含まれているため、楽器同士がぶつかりやすい帯域でもあります。
多すぎるとどうなる?
- 声が耳に刺さる
- 叫んでいるように聞こえる
- 攻撃的で疲れやすい音になる
- 子音が強くなりすぎる
少なすぎるとどうなる?
- 声が奥に引っ込む
- 発音がぼやける
- 歌詞が伝わりにくくなる
- 伴奏に負けやすくなる
声を目立たせたいからといって、この帯域を大きくブーストすると、耳に痛い音になりやすくなります。
少しの変化でも印象が変わりやすいため、慎重に調整しましょう。
4〜8kHz|明るさや子音、歯擦音
4〜8kHzは、声の明るさや鮮明さに関わる帯域です。
「サ行」や「タ行」などの子音も多く含まれており、歌詞の明瞭さを作る重要な部分です。
多すぎるとどうなる?
- 「サ行」が刺さる
- 声がキンキンする
- ノイズが目立つ
- 長時間聴くと耳が疲れる
少なすぎるとどうなる?
- 声が暗くなる
- 発音がぼやける
- 音が奥に引っ込む
- 鮮明さが失われる
特に「サ行」が強く聞こえる現象は、歯擦音と呼ばれます。
歯擦音だけが気になる場合は、EQで帯域全体を削るよりも、ディエッサーを使って強い部分だけを抑える方法があります。
8〜12kHz|艶やきらびやかさ
8〜12kHzは、ボーカルの艶や輝きに関わる帯域です。
適度に持ち上げると、声が明るく華やかになり、高音質に感じられることがあります。
多すぎるとどうなる?
- 声がシャリシャリする
- ノイズが目立つ
- 子音が不自然に強くなる
- 音が薄く感じられる
少なすぎるとどうなる?
- 声が暗くなる
- 録音が古いように感じられる
- 艶がなくなる
- ボーカルが奥に引っ込む
この帯域を持ち上げると、声だけでなく、部屋のノイズやマイクの hiss と呼ばれる「サー」という音も目立ちやすくなります。
ブーストする前に、録音された音の状態を確認しましょう。
12〜20kHz|空気感や広がり
12〜20kHzは、「エアー」と呼ばれる空気感に関わる帯域です。
音程や声の芯というよりも、声の周りにある息遣いや空間の広がりを感じさせます。
適度に加えることで、ボーカルが開放的で高級感のある音に聞こえることがあります。
多すぎるとどうなる?
- 息の音が目立つ
- ノイズが増える
- 音が軽くなる
- 不自然に明るい印象になる
少なすぎるとどうなる?
- 音が閉じて聞こえる
- 空気感がなくなる
- 声が暗く感じられる
- 広がりが少なくなる
この帯域は、再生するスピーカーやイヤホン、年齢、聴力によって聞こえ方が大きく変わります。
変化がわかりにくいからといって、大きく持ち上げすぎないようにしましょう。
帯域別マップの簡単な覚え方
すべての数字を最初から暗記する必要はありません。
まずは、次の5つに分けて覚えるとわかりやすくなります。
超低音域
振動や環境ノイズが含まれやすい部分です。
ボーカルでは、ローカットで整理されることがあります。
低音域
声の重さ、太さ、温かさを作ります。
削りすぎると細くなり、残しすぎるとモコモコします。
中音域
声の芯や人間らしさ、言葉の聞き取りやすさを作ります。
こもりや鼻声の原因にもなりやすい帯域です。
中高音域
声の存在感や明瞭さを作ります。
上げると前に出ますが、上げすぎると耳に刺さります。
高音域
明るさ、艶、空気感を作ります。
上げすぎると歯擦音やノイズが目立ちます。
「低音は太さ、中音は声の芯、高音は明るさ」と覚えるところから始めましょう。
帯域別マップを使うときの注意点
数字を正解だと思わない
帯域別マップは、音を探すための目安です。
「声がこもっているから、必ず300Hzを削る」という使い方ではありません。
同じ「こもり」でも、声質や録音環境によって原因となる周波数は変わります。
悩みを言葉にしてからEQを触る
EQを開いてすぐにつまみを動かすのではなく、まず音の問題を言葉にしてみましょう。
「声が暗い」
「モコモコしている」
「サ行が痛い」
「伴奏に埋もれている」
問題を具体的にすると、探す帯域を絞りやすくなります。
ボーカル単体だけで判断しない
ボーカル単体で太くきれいな音でも、伴奏と一緒に流すと埋もれることがあります。
反対に、単体では少し細く感じても、伴奏と合わせるとちょうどよく聞こえることもあります。
MIXでは、曲全体の中でどのように聞こえるかが重要です。
一度に大きく動かさない
EQは少し動かすだけでも、音の印象が変わります。
大きくカットしたりブーストしたりすると、問題は解決しても、声の自然さや魅力まで失われることがあります。
まずは小さく調整し、EQをオン・オフしながら変化を確認しましょう。
まとめ
EQの帯域別マップを知ると、どの周波数を調整すればよいのか判断しやすくなります。
大まかには、
- 低音域は、声の重さや太さ
- 中低音域は、温かさやこもり
- 中音域は、声の芯や聞き取りやすさ
- 中高音域は、存在感や明瞭さ
- 高音域は、明るさや艶、空気感
に関係しています。
ただし、帯域別マップは、その周波数を必ず上げたり下げたりするための表ではありません。
音の問題を見つけるための「地図」として使うものです。
まずは音をよく聴き、「何が気になるのか」を考えてから、関係しそうな帯域を少しずつ調整してみましょう。
数字を暗記することよりも、EQを動かしたときに音がどのように変化するのかを、自分の耳で確かめることが上達への近道です。