
ボーカルMIXでEQを使うとき、よく行われる処理のひとつが「ローカット」です。
ローカットとは、音に含まれている低い周波数を少しずつ減らしていく処理のことです。
「低音を削ったら、声が細くなってしまうのでは?」と思うかもしれません。しかし、適切にローカットを使うことで、声がすっきりし、曲全体が聞きやすくなることがあります。
では、なぜローカットが必要なのでしょうか。
ローカットとは?
ローカットは、設定した周波数よりも低い音をカットするEQ処理です。
プラグインによっては「ハイパスフィルター」や「HPF」と表示されることもあります。
「ローカット」と「ハイパス」は名前が違いますが、基本的には同じ働きをします。
低い音をカットし、高い音を通すため「ハイパスフィルター」と呼ばれています。
ボーカルには声以外の低音も録音される
マイクでボーカルを録音すると、歌声だけが録音されるわけではありません。
たとえば、
- エアコンや換気扇の音
- 車や電車の振動
- 床を踏んだときの振動
- マイクスタンドに触れた音
- 机や椅子から伝わる振動
- 息がマイクに当たった音
なども一緒に録音されることがあります。
これらの音には、人の耳では気づきにくい低い周波数が多く含まれています。
単体で聴いたときには気にならなくても、伴奏と重なることで低音が濁ったり、曲全体が重たく聞こえたりする原因になります。
ローカットを使うことで、このような不要な低音を整理できます。
低音楽器の邪魔をしないため
曲の低音部分は、主にベースやキックが担当しています。
ボーカルにも必要以上の低音が残っていると、ベースやキックと周波数が重なってしまいます。
音が重なると、低音がぼやけたり、曲全体がモコモコしたりします。
ボーカルの不要な低音をカットすることで、ベースやキックが聞こえやすくなり、曲全体の役割分担がはっきりします。
ローカットは、ボーカルだけをきれいにするためではなく、伴奏全体を聞きやすくするための処理でもあります。
コンプレッサーの誤作動を防ぐため
低い音は、耳ではあまり大きく聞こえなくても、音のエネルギーが強い場合があります。
不要な低音が大きく入っていると、コンプレッサーがその低音に反応してしまうことがあります。
たとえば、歌声そのものは大きくないのに、床の振動や息の音に反応して、コンプレッサーが強くかかってしまうことがあります。
その結果、声が不自然に小さくなったり、音量が不安定になったりします。
EQで不要な低音を先にカットしておくことで、コンプレッサーが歌声に対して自然に反応しやすくなります。
音量を上げやすくするため
聞こえにくい低音が残っていると、その低音も音量の一部として扱われます。
そのため、実際に聞かせたい歌声を大きくしようとしても、音が割れやすくなったり、音圧を上げにくくなったりします。
不要な低音を整理すると、そのぶん音に余裕が生まれます。
この余裕は「ヘッドルーム」と呼ばれます。
ローカットによってヘッドルームを確保することで、必要な音をより自然に前へ出しやすくなります。
声のこもりを減らせることがある
録音した声が重たく、モコモコして聞こえる場合、低い周波数が多すぎる可能性があります。
特にマイクに近づいて録音すると、低音が強調されることがあります。これは「近接効果」と呼ばれる現象です。
適度にローカットを使うことで、余分な重さが減り、声がすっきり聞こえることがあります。
ただし、声のこもりはローカットだけで解決できるとは限りません。
中低音に原因がある場合もあるため、音を聴きながら判断することが大切です。
どこまでローカットすればいい?
ローカットする周波数に、すべてのボーカルで使える正解はありません。
男性と女性では声の低さが違います。また、声質、歌い方、マイク、楽曲によっても必要な低音は変わります。
そのため、
「男性ボーカルは必ず何Hz」
「女性ボーカルは必ず何Hz」
と数字だけで決めないようにしましょう。
基本的には、ローカットの周波数を少しずつ上げていき、声が細くなり始める直前で止めます。
声の太さや温かさが失われたと感じたら、カットしすぎている可能性があります。
ローカットの傾きにも注意する
ローカットには、どれくらい急激に低音を削るかを決める設定があります。
これは「スロープ」と呼ばれ、6dB/oct、12dB/oct、24dB/octなどの数字で表示されます。
数字が小さいほど緩やかにカットされ、数字が大きいほど急激にカットされます。
初心者の場合は、まず緩やかな設定から試すと、自然な音に仕上げやすくなります。
急激にカットすると不要な低音をしっかり除去できますが、設定によっては声の印象が変わりすぎることもあります。
すべての音にローカットが必要とは限らない
ローカットは便利な処理ですが、必ず使わなければならないわけではありません。
もともと不要な低音が少ない録音や、低音の太さが重要な声では、ローカットをしないほうが自然な場合もあります。
また、ローカットをかけすぎると、
- 声が細くなる
- 力強さがなくなる
- 温かみが失われる
- 薄く軽い音になる
といった問題が起こります。
ローカットは「低音をできるだけ削る処理」ではありません。
必要な低音は残し、声に必要のない低音だけを整理する処理です。
まとめ
EQでローカットを行う主な理由は、ボーカルに含まれている不要な低音を整理するためです。
不要な低音をカットすることで、
- 振動や環境音を減らせる
- ベースやキックとぶつかりにくくなる
- コンプレッサーが自然に反応しやすくなる
- 音量を上げるための余裕が生まれる
- 声がすっきり聞こえやすくなる
といった効果が期待できます。
ただし、低音を削りすぎると、声の太さや温かさまで失われてしまいます。
数字だけを見て設定するのではなく、実際の音を聴きながら、声に必要な低音と不要な低音を見分けることが大切です。