腹式呼吸に必要な筋肉とは?歌うときの呼吸を支える仕組みをわかりやすく解説

「腹式呼吸では、お腹の筋肉を使う」

このように聞いたことがある人は多いでしょう。

しかし、実際に空気が入るのはお腹ではなく、肺です。腹式呼吸とは、横隔膜を中心とした筋肉の働きによって肺を広げる呼吸方法のことを指します。

歌うときには、ただ大きく息を吸うだけでなく、吸った息を安定して吐き続けることも重要です。そのためには、横隔膜だけでなく、お腹や肋骨周辺にある複数の筋肉が関わります。

この記事では、腹式呼吸に必要な筋肉と、それぞれの役割について初心者向けに解説します。

腹式呼吸の中心となる筋肉は「横隔膜」

腹式呼吸で最も重要な筋肉が、横隔膜です。

横隔膜は、胸とお腹の間にあるドーム状の筋肉です。肺のすぐ下にあり、胸の空間と腹部を隔てるように位置しています。

息を吸うとき、横隔膜は収縮して下方向へ動きます。すると胸の中の空間が広がり、肺に空気が入ります。

横隔膜が下がると、その下にある内臓が押されます。内臓には行き場が必要になるため、お腹の前側や横側が自然に膨らみます。

つまり、腹式呼吸でお腹が膨らむのは、お腹に空気が入ったからではありません。横隔膜が下がり、内臓が押し出されることで、お腹が外側へ動いているのです。

反対に息を吐くと、横隔膜は力を緩めて元のドーム状に戻ります。胸の中の空間が狭くなり、肺から空気が押し出されます。

腹式呼吸に関わる主な筋肉

腹式呼吸では、横隔膜だけが働いているわけではありません。息を吸ったり、吐く量を調整したりするために、さまざまな筋肉が協力しています。

1.横隔膜

横隔膜は、息を吸うときの主役となる筋肉です。

横隔膜が下がることで肺が広がり、空気を取り込めるようになります。

ただし、横隔膜は腕や脚の筋肉のように、動きを直接見たり触ったりすることが難しい筋肉です。そのため、ボイストレーニングでは、お腹や肋骨の動きを使って横隔膜の働きを確認します。

腹式呼吸をするときは、横隔膜そのものを無理に動かそうとするよりも、お腹や脇腹が自然に広がる呼吸を目指すことが大切です。

2.外肋間筋

肋骨と肋骨の間には、肋間筋という筋肉があります。その中でも、息を吸うときに主に働くのが外肋間筋です。

外肋間筋が収縮すると、肋骨が上方向や外側へ持ち上がります。これによって胸郭が広がり、肺に空気が入りやすくなります。

腹式呼吸という名前から、お腹だけを動かす呼吸だと思われがちですが、実際には肋骨周辺も動きます。

特に歌うときの呼吸では、お腹の前側だけでなく、脇腹や背中側まで広がるように息を吸えると、無理なく空気を取り込みやすくなります。

3.内肋間筋

内肋間筋は、主に強く息を吐くときに働く筋肉です。

内肋間筋が働くと肋骨が下がり、胸郭が小さくなります。その結果、肺の中にある空気が外へ押し出されます。

普段の静かな呼吸では、息を吐くために強い筋力はほとんど必要ありません。横隔膜や外肋間筋が緩むことで、自然に息が外へ出ていきます。

しかし、強く息を吐くときや、大きな声を出すとき、長いフレーズを歌うときなどには、内肋間筋も呼気の調整に関わります。

4.腹横筋

腹式呼吸で特に意識したい腹筋が、腹横筋です。

腹横筋は、お腹の深い位置にあり、胴体をコルセットのように囲んでいる筋肉です。お腹を内側へ引き締める働きがあります。

息を吐くときに腹横筋が働くと、内臓が内側や上方向へ押されます。その力によって横隔膜が押し上げられ、肺から空気を送り出しやすくなります。

歌うときには、腹横筋を一気に強く縮めるのではなく、必要な息の量に合わせて少しずつ働かせることが重要です。

息を吐き始めた瞬間にお腹を強くへこませると、空気が一気に出てしまいます。すると声が不安定になったり、フレーズの途中で息が足りなくなったりします。

5.内腹斜筋・外腹斜筋

お腹の横側にある筋肉が、内腹斜筋外腹斜筋です。

これらの筋肉は、体をひねったり横へ倒したりするときに働きますが、強く息を吐くときにも使われます。

腹斜筋が働くと腹部が圧迫され、横隔膜を押し上げる力が生まれます。そのため、声量を上げるときや、勢いのある発声をするときにも関係します。

ただし、歌うときに脇腹を強く固めすぎると、呼吸の動きが止まってしまいます。息を支えようとして力みすぎないように注意しましょう。

6.腹直筋

一般的に「腹筋」と聞いてイメージされやすいのが、腹直筋です。お腹の前面にあり、いわゆるシックスパックを作る筋肉として知られています。

腹直筋も強く息を吐くときには働きますが、腹式呼吸において最も重要な腹筋というわけではありません。

腹直筋を強く固めると、お腹の動きが制限され、横隔膜が十分に下がりにくくなる場合があります。

そのため、腹式呼吸の練習では腹直筋に力を入れるよりも、お腹の前側や脇腹を柔らかく保ち、自然に広がる状態を作ることが大切です。

息を吸うときと吐くときでは、働く筋肉が違う

腹式呼吸を理解するうえでは、吸うときと吐くときの違いを整理しておくと分かりやすくなります。

息を吸うとき

息を吸うときは、主に横隔膜と外肋間筋が働きます。

横隔膜が下がり、肋骨が外側へ広がることで胸郭の容積が大きくなります。その結果、肺が広がって空気が入ります。

このとき、お腹の筋肉を強く固めていると、内臓が動けず、横隔膜も下がりにくくなります。

息を吸うときは、お腹を無理に突き出すのではなく、お腹や脇腹を柔らかくして、自然に広がるのを邪魔しないことが重要です。

息を吐くとき

安静時の呼吸では、横隔膜が緩んで元の位置へ戻ることで、息が自然に外へ出ていきます。

一方、歌うときには、吐く息の量や速さを細かく調整する必要があります。このときに腹横筋や腹斜筋、内肋間筋などが働きます。

これらの筋肉を使って腹部や胸郭の戻り方を調整することで、息が一気に漏れるのを防ぎ、長く安定した呼気を作ります。

「腹式呼吸=お腹に力を入れる」ではない

腹式呼吸の練習でよくある間違いが、最初からお腹に強く力を入れてしまうことです。

腹式呼吸では、息を吸う段階と吐く段階で筋肉の使い方が異なります。

息を吸うときは、横隔膜が下がれるように腹部を柔らかく保ちます。息を吐くときは、必要に応じて腹部の筋肉を少しずつ使います。

最初から腹筋を固めてしまうと、横隔膜の動きを妨げてしまいます。胸や肩だけが持ち上がる浅い呼吸になりやすいため注意が必要です。

大切なのは、常に強く力を入れることではなく、吸うときには緩め、吐くときには必要な分だけ使うことです。

歌うときに必要なのは「息を押し出す力」より「調整する力」

歌うときには、腹筋を使って息を強く押し出せばよいと思われることがあります。

しかし、息を強く押し出しすぎると、声帯に多くの空気が当たりすぎてしまいます。その結果、声が息っぽくなったり、喉に力が入ったり、高音が苦しくなったりすることがあります。

歌唱で必要なのは、できるだけ強い呼気ではありません。

必要なのは、音量や音程、フレーズに合わせて、息の量と速さを適切にコントロールする能力です。

例えば、小さな声で歌うときと、大きな声で歌うときでは必要な息の量が違います。低い音と高い音でも、適切な呼気の使い方は変わります。

腹部の筋肉は、息を強く押し出すためだけではなく、必要以上に息が出ないように調整するためにも使われます。

腹式呼吸で意識したい体の動き

腹式呼吸を練習するときは、お腹の前側だけを見るのではなく、胴体全体の動きを確認しましょう。

息を吸ったときに、次の部分がゆるやかに広がっているかを確認します。

  • みぞおちより下のお腹
  • 左右の脇腹
  • 腰に近い背中側
  • 下側の肋骨周辺

胴体が前後左右へ立体的に広がるイメージを持つと、横隔膜や肋間筋を自然に使いやすくなります。

ただし、すべての部分を大きく膨らませる必要はありません。無理にお腹を突き出したり、背中を反らせたりすると、かえって体に余計な力が入ります。

腹式呼吸を確認する簡単な練習方法

まずは、仰向けに寝た状態で練習してみましょう。

仰向けになると、立っているときよりも腹部の動きを感じやすくなります。

練習の手順

  1. 仰向けに寝て、膝を軽く曲げます。
  2. 片手を胸、もう片方の手をお腹に置きます。
  3. 鼻や口から静かに息を吸います。
  4. 胸を大きく持ち上げず、お腹側の手が自然に動くか確認します。
  5. 「スー」と細く音を立てながら、ゆっくり息を吐きます。
  6. 息を吐きながら、お腹が少しずつ元に戻る感覚を確認します。

息を吸うときに、お腹を自分から突き出す必要はありません。空気が入った結果として、お腹が自然に広がる状態を目指しましょう。

息を吐くときも、一気にお腹をへこませるのではなく、一定の速さで少しずつ戻していきます。

腹筋トレーニングをすれば歌がうまくなる?

腹式呼吸には腹横筋や腹斜筋などが関係するため、腹筋を鍛えれば歌がうまくなると思うかもしれません。

もちろん、体幹の筋力が極端に弱い場合には、適度なトレーニングが呼吸や姿勢の安定につながることがあります。

しかし、筋肉を強くするだけで、歌うときの呼吸が自動的に上手になるわけではありません。

歌唱では、筋力の強さ以上に、必要な筋肉を適切なタイミングと強さで使うことが重要です。

どれだけ腹筋が強くても、息を一気に押し出してしまえば、長いフレーズを安定して歌うことはできません。

腹式呼吸を身につけるためには、筋力トレーニングだけでなく、細く長く息を吐く練習や、実際の発声と組み合わせた練習が必要です。

まとめ

腹式呼吸の中心となる筋肉は横隔膜です。

横隔膜が下がることで胸郭が広がり、肺に空気が入ります。その結果、内臓が押され、お腹や脇腹が外側へ広がります。

また、歌うときの呼吸には、次のような筋肉も関わっています。

  • 横隔膜:息を吸う動きの中心
  • 外肋間筋:肋骨を広げ、吸気を助ける
  • 内肋間筋:強く息を吐くときに働く
  • 腹横筋:腹部を締め、呼気を調整する
  • 内腹斜筋・外腹斜筋:腹圧を高め、呼気を補助する
  • 腹直筋:強い呼気に関わるが、力みすぎには注意が必要

腹式呼吸では、ただお腹に力を入れればよいわけではありません。

息を吸うときには体を柔らかくして横隔膜が動ける状態を作り、息を吐くときには腹部の筋肉を必要な分だけ使います。

歌唱で大切なのは、強い息を出すことではなく、声に合わせて息を細かく調整することです。

筋肉の仕組みを理解したうえで練習すると、力任せにならず、安定した呼吸と発声を身につけやすくなるでしょう。

タイトルとURLをコピーしました